卒業後の就職支援体制の強化に課題を抱えていたITスクール運営会社が、
エンジニア人材紹介会社の紹介ネットワークを活用し、
育成から就職まで一気通貫で支える体制を築いた、成長戦略型M&A

ITスクール運営会社の「次の打ち手」を、成長戦略型M&Aで実現した1件。
メール送付からクロージング(SPA締結)まで、ミライアが伴走した全5フェーズの工程をご紹介します。

  • 読了時間約10分
  • 扱う業界人材 / 人材
  • 扱う業種ITスクール / ITエンジニア人材紹介
  • 組織規模10人以下
  • 最終更新2026年7月

ミライアは「成長戦略型M&A」を軸に、売り手・買い手それぞれの”事業の続き”を、一緒に描いていく仕事をしています。本記事では、ITスクールとエンジニア人材紹介という、「ITエンジニアの成長とキャリアを支える」という共通軸を持ちながらも異なるケイパビリティを持つ企業同士の株式譲渡を、ミライアのフローに沿って紐解きます。初回接触から成約までのプロセスを、各フェーズで実際に何を進めたのかを、モデルケースを通してご紹介します。

ミライアの強みは、4つに絞った対応領域への深い業界理解です。両者を組み合わせた時に”何が伸びるか”を、シナジー仮説として一緒に立てる。その仮説を軸に、候補のご提案から条件交渉までを、一貫してまとめていきます。

この記事のおすすめ読者

  • ITスクール事業の就職支援体制の強化や受講生の就職率向上を模索している経営者の方
  • M&AによってITスクールからの若手エンジニア登録経路を確保し、人材紹介の供給力を高めたいと考えている企業の経営層の方
  • エンジニア育成力と人材紹介力という異なるケイパビリティが、M&Aでどのようなシナジーを生むかを知りたい方

ケース概要

本ケースは、ITエンジニア育成スクールを運営する専門会社と、ITエンジニア専門の人材紹介を全国展開する中堅企業による株式譲渡の事例です。多数の受講生を輩出しながらも卒業後の就職支援体制の強化に課題を抱えていた売り手側と、全国規模で人材紹介を展開しながらも若手エンジニアの登録者獲得が課題だった買い手側——両社の課題が鏡合わせのように補完し合う形で、今回のM&Aは実現しました。

クライアント概要(架空・モデルケース)


譲渡企業(売り手)

  • 株式会社A / 従業員約10名 / ITスクール事業を運営。
  • プログラミング・インフラ・クラウドなどITエンジニア向けカリキュラムを提供し、未経験者から転職志望者まで幅広い受講生を育成。

譲渡企業(売り手)課題感

  • カリキュラムの品質と受講生の満足度は高いが、卒業後の就職支援が手薄で受講生の就職率と定着率に課題がある
  • 就職支援を強化しようにも10名体制では企業開拓や紹介ネットワークの構築に限界がある
  • 就職支援の実績を持つパートナーと組むことで、受講生が卒業後も安心して就職できる体制を作りたい

譲受企業(買い手)

  • 株式会社B / 従業員約320名 / ITエンジニア専門の人材紹介事業を全国展開。
  • 中堅・シニアエンジニアの転職支援を中心に、多数の企業と求職者のマッチングを手がける。

譲受企業(買い手)課題感

  • 中堅・シニアエンジニアの紹介実績は豊富だが、若手・未経験者層の登録者獲得チャンネルが不足している
  • スキルアップを求める若手エンジニアへのアプローチが弱く、エンジニア市場の入口となる層にリーチできていない
  • ITスクールという育成の現場からエンジニアとの関係を作ることで、若手層の安定した登録者供給ラインを確保したい

取引形態

  • 株式譲渡(株式会社Aの全株式を株式会社Bが取得)

ミライアの役割

  • 売り手・買い手双方のM&A仲介。初回打診から最終契約まで一貫して伴走。

プロセスの全体像

ミライアは5つのフェーズ群にまとめ、それぞれで何を行うかを設計しています。本ケースでは初回接触から成約まで約6ヶ月のプロセスとなりました。

本件の特徴は、シナジーの流れが一方向に明確だった点です。スクールで育ったエンジニアが、卒業後にそのまま株式会社Bの紹介ネットワークを通じてキャリアを歩み始める——教育と就職が切れ目なくつながるこの構造が、受講生・企業・双社の三者すべてに価値をもたらすという確信が、6ヶ月での成約を後押ししました。

Phase 1. 接触・契約フェーズ

売り手・買い手 双方の想いと事業をじっくり伺い、思想の重なりを確認したうえで、アドバイザリー契約を結びます。

株式会社B(買い手)からの依頼
  • 今回のプロセスは、買い手である株式会社B側からのご相談を起点に始まりました。
  • ITエンジニア専門の人材紹介で320名規模まで成長してきた株式会社Bは、中堅・シニアエンジニアの転職支援に強みを持つ一方で、若手・未経験者層へのアプローチが課題になっていました。エンジニア市場の競争が激化する中で、転職を考え始めた段階ではなく、エンジニアとしてのキャリアを歩み始める最初期から関係を築けるチャンネルが必要でした。「ITスクールという育成の現場からエンジニアと接点を持ち、卒業後の就職支援を通じて若手層の安定した登録者供給ラインを作りたい。M&Aで取り込むことが最も効率的と判断した」——それが今回の依頼の核心でした。
  • ミライアはこのご相談を受け、候補先の選定に着手。EdTech・HR領域への深い理解を元に、カリキュラムの品質・受講生の規模と属性・就職支援への親和性・チームの安定性を軸に複数社をリストアップするなかで、株式会社Aが要件に合致すると判断し、打診へと進みました。
キックオフ・ヒアリング
  • 株式会社A代表との最初の対話は、財務数値の整理よりも前に始めました。「なぜITエンジニアを育てるスクールを作ろうと思ったのか」「受講生が卒業後にどんな未来を歩んでほしかったのか」「譲渡後もスクールの現場に関わり続けたいか」——代表が受講生一人ひとりに向けてきた思いへの敬意を起点に、時間をかけて伺いました。ヒアリングの内容は「成長戦略シート」として整理し、後続のマッチングや条件交渉の場で、立ち戻れる土台として活用しました。
  • 買い手である株式会社B側からは、「スクール卒業生という若手エンジニアとの自然な接点を持つ組織を取り込みたい」というオーダーをすでに受けていました。そのため株式会社A代表のヒアリングでは、カリキュラムの内容や受講生数だけでなく、「このスクールの卒業生が就職後もエージェントと長期的な関係を結んでくれるような信頼の文脈があるか」という視点を、最初の仕事と位置づけていました。
  • ITスクール事業において、カリキュラムの品質だけでなく、受講生一人ひとりのキャリアへの向き合い方を深く理解して伴走できる力そのものが資産になります。売り手・買い手 双方の成長戦略が重なる部分を見つけることが、このフェーズでのミライアの役割でした。
候補先の選定
  • 成長戦略シートをもとに、株式会社B含めミライアの独自ネットワークから候補先を選定しました。「ITスクールの卒業生ネットワークが加わることで、エンジニア人材紹介の登録者供給と若手層への訴求がどう変わるか」というシナジー仮説を軸に、単なる財務的な相性ではなく、受講生の質と属性・就職支援への親和性・スクールの教育思想との一致を重視して複数社をご提案しました。
NDA・アドバイザリー契約の締結
  • 初回面談で代表の意向と方向性を確認したうえで、ミライアとのNDA・アドバイザリー契約を締結。着手金はいただかないまま、ここから本格的な伴走を開始します。

Phase 2. 事前準備フェーズ

売り手側の事業の価値を言語化し、買い手検討に必要な情報を、一緒に整えていきます。

企業価値の算定
  • DCF法・類似企業比較法・直近の取引事例を組み合わせ、株式価値のレンジを算定。ITスクール事業の評価では、年間受講生数・卒業後の就職率・受講料単価・リピート・紹介経由の入学率・カリキュラムの種類と幅がキー項目になります。「就職支援体制が弱かった」という売り手の課題は逆に、買い手の全国人材紹介ネットワークと組み合わせることで就職率が改善し、スクールのブランド価値と集客力が大幅に向上できるシナジーとして評価される要因にもなります。数字の前提はすべて代表と共有し、「買い手がどう見るか」を念頭に置いた価格レンジを共通認識にしました。
IM(インフォメーション・メモランダム)の作成
  • 買い手候補への開示資料(IM)は、ミライアが主導して作成。カリキュラム構成と受講生の属性・規模、年間受講者数と就職率の推移、売上構造と受講料単価、卒業生のキャリア実績の概要、リスク要因まで、ITスクール事業の文脈で読める構成にしました。売り手側の日常業務を止めないよう、ドラフトをこちらから提示し、レビューを重ねる進め方で仕上げました。

Phase 3. 打診・初期検討フェーズ

買い手候補への打診と情報開示を、リスクを抑えながら、一歩ずつ進めます。

NDA・アドバイザリー締結と情報開示
  • 株式会社B側とのNDA(秘密保持契約)・アドバイザリー契約をミライアが締結。その後、IMを段階的に開示しました。受講生の個人情報やキャリア情報は特に機密性が高いため、開示範囲と匿名化の判断は、売り手と毎回確認しながら進めました。
関心の確認とフィードバック整理
  • 株式会社B側の初期検討における論点——「講師・スタッフの継続意向は買収後も維持されるか」「スクール卒業生への就職支援をエージェントに移行する際の受講生への説明・同意取得はどう設計するか」「受講生の個人情報を人材紹介に活用する際の個人情報保護法上の整理はどうなるか」——を整理し、売り手側にフィードバック。双方の温度感を週次で確認しながら、検討の停滞を防ぎました。

Phase 4. 交渉・基本合意フェーズ

トップ面談で互いの意思を確かめ、条件交渉を経て、基本合意(LOI)まで進みます。

トップ面談のセッティングと同席
  • 両社の経営トップによる対面での面談を、ミライアがセッティング。当日はアジェンダを事前に共有し、ミライアも同席しました。価格交渉の前に、「ITスクールが受講生のキャリアに届けてきた可能性の広げ方」と「エンジニア人材紹介会社が求職者のキャリアに実現したい長期的な成長の伴走像」を語り合う時間を先に設けたことで、両代表の間に共通の文脈が生まれました。
条件交渉と論点整理
  • 株式譲渡特有の論点として、株式の評価額・譲渡対価の支払いスキーム(一括か分割か)に加え、表明保証の範囲、既存の雇用契約の引き継ぎ、講師・スタッフの待遇水準の維持・代表の処遇と役割の継続——これらをフェーズごとにメモを起こし、両社が”同じ前提で”議論できる場を整えました。
  • 受講生の個人情報を就職支援・人材紹介に活用するための個人情報保護法上の整理については、両社が最も慎重に向き合った論点でした。受講申込時の利用目的の範囲・引き継ぎ後の活用に対する同意取得フロー・プライバシーポリシーの改定——これらを弁護士と連携して早期に設計したことが、合意形成をはやめる大きな手応えとなりました。
基本合意書(LOI)のドラフトと中間金
  • 条件がおおむね固まった段階で、ミライアが基本合意書(LOI)のドラフトを作成。独占交渉権が付与され、中間金のお支払いをしていただきました。

Phase 5. 最終合意・クロージングフェーズ

デューデリジェンス(DD)を経て最終契約書(SPA)を締結。引き渡しが完了するまで、隣にいます。

DDの調整と専門家連携
  • 財務・法務・事業の3軸でDDを実施。株式譲渡では法人格ごと引き受けるため、簿外債務・未払い残業代・受講生との契約条件・個人情報管理体制・卒業生への就職支援における職業安定法上の整理等、EdTech・HR事業特有のリスク確認に特に注力しました。売り手側の顧問税理士・弁護士と、買い手側の専門家チームの間に入り、論点の優先順位と日程を調整。売り手の業務負荷が集中しないよう、資料提供のスケジュールをこちらで設計しました。
SPAの論点整理
  • DD結果をもとに最終契約書(SPA)の論点を整理。表明保証の補償上限と期間、クローバック条項の有無、アーンアウト(業績連動対価)の設計——株式譲渡ならではの条件項目を、双方にとって公平な落としどころに着地させるため、ミライアが両社の間で翻訳役を担いました。
クロージング立会いと引き渡し
  • 最終契約締結・株式の移転・対価の決済を、ミライアが同席のもと完了。引き渡しが完了するまで隣にいる——これが私たちの変わらないスタンスです。その後、スムーズな引き継ぎを経て、スクール卒業生への就職支援に株式会社Bのエージェント機能が加わり段階的に開始。約3ヶ月後には、スクールでの育成から就職・その後のキャリア形成まで一気通貫で支えるエンジニアキャリアプラットフォームとしての新体制での正式稼働が始まりました。

結び

ITエンジニアを育成する側と、就職・転職を支援する側がそれぞれ分断されたまま存在しているという構造は、エンジニア市場全体の課題です。スクールを卒業しても就職先が見つからない、あるいはミスマッチのまま就職してしまうケースは後を絶たず、その多くが「育成と就職支援の断絶」に起因しています。育成段階から受講生のスキルと志向を深く理解したうえで就職を支援するこのモデルは、その断絶を埋める取り組みとして、業界全体が参照できる一つの答えでもあります。今回のM&Aは、その問いに対する、ひとつの具体的な実践でした。

株式譲渡という形態は、雇用・待遇・雇用契約をそのまま引き継げる一方、法人格ごと移転するため、デューデリジェンスの深度や表明保証の設計が成否を分けます。ミライアはそのプロセス全体を、両社が安心して進められるように設計し、実行していきます。

波江田 茂生

株式会社ミライア代表取締役CEO。 スタートアップ企業にて複数の新規事業の立ち上げ、マーケティング、システム構築などを経験。株式会社マイナビにて、大手企業向けの採用コンサルティングおよびメンバーのマネジメントに従事し、最速で課長に昇進、年間MVPを受賞。その後、株式会社マイナビM&Aの立ち上げ責任者として、2年間で個人売上3億円・メンバー30名規模まで事業を拡大。これらの経験を経て、株式会社ミライアを創業し、代表取締役に就任。

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