ミライアは「成長戦略型M&A」を軸に、売り手・買い手それぞれの”事業の続き”を、一緒に描いていく仕事をしています。本記事では、勤怠管理SaaSと給与計算アウトソーシングという、「企業の労務業務を支える」という共通軸を持ちながらも異なるケイパビリティを持つ企業同士の株式譲渡を、ミライアのフローに沿って紐解きます。初回接触から成約までのプロセスを、各フェーズで実際に何を進めたのかを、モデルケースを通してご紹介します。
ミライアの強みは、4つに絞った対応領域への深い業界理解です。両者を組み合わせた時に”何が伸びるか”を、シナジー仮説として一緒に立てる。その仮説を軸に、候補のご提案から条件交渉までを、一貫してまとめていきます。
この記事のおすすめ読者
- 勤怠管理SaaSの提供領域を拡張し、給与計算まで一貫したサービスを目指している経営者の方
- M&Aによって自社BPOサービスにSaaSプロダクトを取り込み、業務効率化と差別化を図りたい企業の経営層の方
- HRtech領域のSaaSとアウトソーシングの融合が、M&Aでどのようなシナジーを生むかを知りたい方
ケース概要
本ケースは、中小企業を中心にクラウド勤怠管理システムを提供するSaaS企業と、給与計算アウトソーシングを主力とする労務受託企業による株式譲渡の事例です。勤怠管理の導入実績は豊富ながらも給与計算まで一貫提供できないことに課題を抱えていた売り手側と、多くの企業の給与計算を受託しながらも自社システムを持たず業務効率化に限界を感じていた買い手側——両社の課題が鏡合わせのように補完し合う形で、今回のM&Aは実現しました。
クライアント概要(架空・モデルケース)
譲渡企業(売り手)
- 株式会社A / 従業員約40名 / 勤怠管理SaaS事業を運営。
- クラウドベースの勤怠管理システムを中小企業を中心に提供。打刻・シフト管理・残業アラートなどの機能を持つ。
譲渡企業(売り手)課題感
- 勤怠管理の導入実績と継続率は高いが、顧客から「給与計算まで一緒にお願いしたい」という要望に応えられていない
- 給与計算機能の開発や対応体制を自社で整えるには時間とコストがかかりすぎる
- 勤怠から給与まで一貫提供できるパートナーと組むことで、顧客のLTV向上と解約防止を実現したい
譲受企業(買い手)
- 株式会社B / 従業員約120名 / 給与計算アウトソーシング事業を展開。
- 中小・中堅企業の給与計算・社会保険手続き・年末調整などの労務業務を受託。
譲受企業(買い手)課題感
- 給与計算の受託業務はスタッフによる手作業の割合が高く、人件費増加とともに収益性が低下している
- 勤怠データの受け取りが各顧客でバラバラで、データ整備に工数がかかっている
- 自社でクラウド勤怠システムを持つことで業務効率化と顧客との連携強化を実現したい
取引形態
- 株式譲渡(株式会社Aの全株式を株式会社Bが取得)
ミライアの役割
- 売り手・買い手双方のM&A仲介。初回打診から最終契約まで一貫して伴走。
プロセスの全体像
ミライアは5つのフェーズ群にまとめ、それぞれで何を行うかを設計しています。本ケースでは初回接触から成約まで約6ヶ月のプロセスとなりました。
本件の特徴は、シナジーのデータ連携としての具体性が極めて高かった点です。株式会社Bの給与計算業務は勤怠データを起点としており、株式会社AのSaaSが持つ勤怠データをそのまま給与計算に連携できれば、業務工数の大幅削減と入力ミスの防止が同時に実現できる——その構想が、両社の対話を一気に加速させる原動力となりました。

Phase 1. 接触・契約フェーズ
売り手・買い手 双方の想いと事業をじっくり伺い、思想の重なりを確認したうえで、アドバイザリー契約を結びます。
株式会社B(買い手)からの依頼
- 今回のプロセスは、買い手である株式会社B側からのご相談を起点に始まりました。
- 給与計算アウトソーシングで120名規模まで成長してきた株式会社Bは、労務受託のノウハウと顧客基盤を持つ一方で、業務の非効率という構造的な課題に向き合っていました。顧客ごとに異なる形式で勤怠データが届き、それを給与計算用に整形する作業だけで多くの工数が消えていました。「自社でクラウド勤怠システムを持ち、勤怠データを標準化して給与計算に直結させたい。自社開発ではなく、中小企業への導入実績が豊富なSaaSをM&Aで取り込みたい」——それが今回の依頼の核心でした。
- ミライアはこのご相談を受け、候補先の選定に着手。HRtech・労務領域への深い理解を元に、勤怠管理SaaSの機能完成度・中小企業への導入実績・API連携の対応可否・チームの安定性を軸に複数社をリストアップするなかで、株式会社Aが要件に合致すると判断し、打診へと進みました。
キックオフ・ヒアリング
- 株式会社A代表との最初の対話は、財務数値の整理よりも前に始めました。「なぜ勤怠管理というテーマのSaaSを作ろうと思ったのか」「中小企業の労務担当者がどんな課題を抱えているのを見てきたか」「譲渡後もプロダクト開発に関わり続けたいか」——代表が積み上げてきたプロダクトとチームへの敬意を起点に、時間をかけて伺いました。ヒアリングの内容は「成長戦略シート」として整理し、後続のマッチングや条件交渉の場で、立ち戻れる土台として活用しました。
- 買い手である株式会社B側からは、「給与計算業務のデータ起点となる勤怠管理SaaSを取り込み、業務全体をシームレスに連携させたい」というオーダーをすでに受けていました。そのため株式会社A代表のヒアリングでは、機能仕様や導入社数だけでなく、「このプロダクトが給与計算業務との連携を想定した設計になっているか」という視点を、最初の仕事と位置づけていました。
- 勤怠管理SaaS事業において、打刻精度や機能の豊富さだけでなく、給与計算・人事システムとのデータ連携を前提とした設計思想そのものが資産になります。売り手・買い手 双方の成長戦略が重なる部分を見つけることが、このフェーズでのミライアの役割でした。
候補先の選定
- 成長戦略シートをもとに、株式会社B含めミライアの独自ネットワークから候補先を選定しました。「勤怠管理SaaSが加わることで、給与計算アウトソーシング顧客に提供できる価値がどう広がるか」というシナジー仮説を軸に、単なる財務的な相性ではなく、データ連携の親和性・対象顧客層の重なり・チーム文化の親和性を重視して複数社をご提案。
NDA・アドバイザリー契約の締結
- 初回面談で代表の意向と方向性を確認したうえで、ミライアとのNDA・アドバイザリー契約を締結。着手金はいただかないまま、ここから本格的な伴走を開始します。
Phase 2. 事前準備フェーズ
売り手側の事業の価値を言語化し、買い手検討に必要な情報を、一緒に整えていきます。
企業価値の算定
- DCF法・類似企業比較法・直近の取引事例を組み合わせ、株式価値のレンジを算定。勤怠管理SaaSモデルの評価では、導入社数・ARR(年間経常収益)・解約率・ARPU・対応可能な雇用形態・勤務パターンの幅がキー項目になります。「給与計算まで一貫提供できなかった」という売り手の課題は逆に、買い手の給与計算ノウハウと組み合わせることで勤怠から給与まで一気通貫のサービスが実現でき、LTVが大幅に改善できるシナジーとして評価される要因にもなります。数字の前提はすべて代表と共有し、「買い手がどう見るか」を念頭に置いた価格レンジを共通認識にしました。
IM(インフォメーション・メモランダム)の作成
- 買い手候補への開示資料(IM)は、ミライアが主導して作成。プロダクトの機能構成・技術スタック・外部システムとのAPI連携実績、導入企業のプロファイルと業種・規模の分布、ARRと解約率の推移、開発ロードマップ、リスク要因まで、勤怠管理SaaSの文脈で読める構成にしました。売り手側の日常業務を止めないよう、ドラフトをこちらから提示し、レビューを重ねる進め方で仕上げました。
Phase 3. 打診・初期検討フェーズ
買い手候補への打診と情報開示を、リスクを抑えながら、一歩ずつ進めます。
NDA・アドバイザリー締結と情報開示
- 株式会社B側とのNDA(秘密保持契約)・アドバイザリー契約をミライアが締結。その後、IMを段階的に開示しました。導入企業の勤怠データや契約内容は特に機密性が高いため、開示範囲と匿名化の判断は、売り手と毎回確認しながら進めました。
関心の確認とフィードバック整理
- 株式会社B側の初期検討における論点——「既存の給与計算システムとのAPI連携は技術的に実現可能か」「開発チームの継続意向は買収後も維持されるか」「中小企業の顧客データを取り扱う際の個人情報保護体制は整っているか」——を整理し、売り手側にフィードバック。双方の温度感を週次で確認しながら、検討の停滞を防ぎました。
Phase 4. 交渉・基本合意フェーズ
トップ面談で互いの意思を確かめ、条件交渉を経て、基本合意(LOI)まで進みます。
トップ面談のセッティングと同席
- 両社の経営トップによる対面での面談を、ミライアがセッティング。当日はアジェンダを事前に共有し、ミライアも同席しました。価格交渉の前に、「勤怠管理SaaSが中小企業の労務担当者に届けようとしていた価値」と「給与計算アウトソーシング企業が顧客の労務業務全体に実現したい効率化の姿」を語り合う時間を先に設けたことで、両代表の間に共通の文脈が生まれました。
条件交渉と論点整理
- 株式譲渡特有の論点として、株式の評価額・譲渡対価の支払いスキーム(一括か分割か)に加え、表明保証の範囲、既存の雇用契約の引き継ぎ、開発チームの待遇水準の維持・代表の処遇と役割の継続——これらをフェーズごとにメモを起こし、両社が”同じ前提で”議論できる場を整えました。
- 勤怠データと給与計算システムのAPI連携の実現時期と優先度については、両社が最も具体的な議論を要した論点でした。買い手側が「M&A成立後の最初の四半期でAPI連携の設計を開始する」という具体的なロードマップを示したことで、売り手側の「本当に活用してもらえるのか」という不安が解消され、合意形成をはやめる大きな手応えとなりました。
基本合意書(LOI)のドラフトと中間金
- 条件がおおむね固まった段階で、ミライアが基本合意書(LOI)のドラフトを作成。独占交渉権が付与され、中間金のお支払いをしていただきました。
Phase 5. 最終合意・クロージングフェーズ
デューデリジェンス(DD)を経て最終契約書(SPA)を締結。引き渡しが完了するまで、隣にいます。
DDの調整と専門家連携
- 財務・法務・事業の3軸でDDを実施。株式譲渡では法人格ごと引き受けるため、簿外債務・未払い残業代・導入企業の勤怠データの管理体制・プロダクトの知的財産権帰属等、SaaS事業特有のリスク確認に特に注力しました。勤怠・給与データという従業員の個人情報を扱うシステムであることから、セキュリティ体制と個人情報保護法上の運用状況も重点的に確認しました。売り手側の顧問税理士・弁護士と、買い手側の専門家チームの間に入り、論点の優先順位と日程を調整。売り手の業務負荷が集中しないよう、資料提供のスケジュールをこちらで設計しました。
SPAの論点整理
- DD結果をもとに最終契約書(SPA)の論点を整理。表明保証の補償上限と期間、クローバック条項の有無、アーンアウト(業績連動対価)の設計——株式譲渡ならではの条件項目を、双方にとって公平な落としどころに着地させるため、ミライアが両社の間で翻訳役を担いました。
クロージング立会いと引き渡し
- 最終契約締結・株式の移転・対価の決済を、ミライアが同席のもと完了。引き渡しが完了するまで隣にいる——これが私たちの変わらないスタンスです。その後、スムーズな引き継ぎを経て、株式会社BのアウトソーシングプロセスへのSaaS活用が段階的に開始。約4ヶ月後には、クラウド勤怠データと給与計算を直接連携させた新体制での正式稼働が始まりました。
結び
勤怠管理SaaS × 給与計算アウトソーシングという組み合わせは、「ツールと人手、別々のサービス」に見えるかもしれません。けれど、両社が共通して向き合っていたのは「企業の労務担当者が、本来の仕事に集中できる環境を作ること」でした。打刻・集計・給与計算・社会保険手続き——それらがシームレスにつながり、データを何度も入力し直す手間がなくなる。その体験を一社で届けられる体制が、今回のM&Aで初めて実現しました。
株式譲渡という形態は、雇用・待遇・雇用契約をそのまま引き継げる一方、法人格ごと移転するため、デューデリジェンスの深度や表明保証の設計が成否を分けます。ミライアはそのプロセス全体を、両社が安心して進められるように設計し、実行していきます。

波江田 茂生
株式会社ミライア代表取締役CEO。 スタートアップ企業にて複数の新規事業の立ち上げ、マーケティング、システム構築などを経験。株式会社マイナビにて、大手企業向けの採用コンサルティングおよびメンバーのマネジメントに従事し、最速で課長に昇進、年間MVPを受賞。その後、株式会社マイナビM&Aの立ち上げ責任者として、2年間で個人売上3億円・メンバー30名規模まで事業を拡大。これらの経験を経て、株式会社ミライアを創業し、代表取締役に就任。
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