導入後の運用支援が手薄なバックオフィスSaaSが、
BPO事業の運用支援体制を活用し、
解約率の改善につなげた、成長戦略型M&A

バックオフィスSaaSの「次の打ち手」を、成長戦略型M&Aで実現した1件。
メール送付からクロージング(SPA締結)まで、ミライアが伴走した全5フェーズの工程をご紹介します。

  • 読了時間約10分
  • 扱う業界IT / IT
  • 扱う業種バックオフィスSaaS / BPO
  • 組織規模51〜100人
  • 最終更新2026年7月

ミライアは「成長戦略型M&A」を軸に、売り手・買い手それぞれの”事業の続き”を、一緒に描いていく仕事をしています。本記事では、バックオフィスSaaSとBPOという、「企業の管理業務を効率化する」という共通軸を持ちながらも異なるケイパビリティを持つ企業同士の株式譲渡を、ミライアのフローに沿って紐解きます。初回接触から成約までのプロセスを、各フェーズで実際に何を進めたのかを、モデルケースを通してご紹介します。

ミライアの強みは、4つに絞った対応領域への深い業界理解です。両者を組み合わせた時に”何が伸びるか”を、シナジー仮説として一緒に立てる。その仮説を軸に、候補のご提案から条件交渉までを、一貫してまとめていきます。

この記事のおすすめ読者

  • バックオフィスSaaSの導入支援・カスタマーサクセス体制の強化を模索している経営者の方
  • M&Aによって自社BPOサービスにSaaSプロダクトを取り込み、生産性向上と差別化を図りたい企業の経営層の方
  • SaaSプロダクトと人的サービスの融合が、M&Aでどのようなシナジーを生むかを知りたい方

ケース概要

本ケースは、経費精算・契約管理などバックオフィス領域のSaaSを提供する企業と、経理・総務・人事のBPOサービスを展開する中堅企業による株式譲渡の事例です。プロダクトは好調ながら導入後の運用支援体制が不足していた売り手側と、人的サービスを軸に展開してきたものの生産性向上に限界を感じていた買い手側——両社の課題が鏡合わせのように補完し合う形で、今回のM&Aは実現しました。

クライアント概要(架空・モデルケース)


譲渡企業(売り手)

  • 株式会社A / 従業員約55名 / バックオフィスSaaS事業を運営。
  • 経費精算・契約管理・稟議ワークフローなどのSaaSを法人向けに提供。

譲渡企業(売り手)課題感

  • プロダクトの評判は高く導入数も伸びているが、導入後の定着支援・活用促進体制が整っていない
  • カスタマーサクセスやオンボーディングのリソースが不足し、解約率の改善が課題になっている
  • バックオフィス業務の現場を熟知したパートナーと組むことで、プロダクトの価値をさらに引き出したい

譲受企業(買い手)

  • 株式会社B / 従業員約340名 / BPOサービスを展開。
  • 経理・総務・人事などのバックオフィス業務を顧客企業から受託し、専門スタッフが運用。

譲受企業(買い手)課題感

  • 人的サービスを中心としたBPOモデルでは、人件費の上昇に伴うコスト構造の改善に限界がある
  • SaaSを活用した業務効率化によって生産性を高め、同じ人員でより多くの企業を支援したい
  • 自社でSaaSを開発するノウハウはなく、完成されたプロダクトをM&Aで取り込む判断に至った

取引形態

  • 株式譲渡(株式会社Aの全株式を株式会社Bが取得)

ミライアの役割

  • 売り手・買い手双方のM&A仲介。初回打診から最終契約まで一貫して伴走。

プロセスの全体像

ミライアは5つのフェーズ群にまとめ、それぞれで何を行うかを設計しています。本ケースでは初回接触から成約まで約8ヶ月のプロセスとなりました。

本件の特徴は、シナジーの方向性が双方向に機能していた点です。株式会社BのBPO顧客にSaaSを導入することで業務効率化と生産性向上が実現できる一方、株式会社AのSaaS顧客に対してBPOスタッフによる導入・運用支援を提供することで解約率の改善と顧客深耕が見込める——その双方向の価値創出が、8ヶ月のプロセスを両社が前向きに進め続けた原動力となりました。

Phase 1. 接触・契約フェーズ

売り手・買い手 双方の想いと事業をじっくり伺い、思想の重なりを確認したうえで、アドバイザリー契約を結びます。

株式会社B(買い手)からの依頼
  • 今回のプロセスは、買い手である株式会社B側からのご相談を起点に始まりました。
  • 経理・総務・人事のBPOで340名規模まで成長してきた株式会社Bは、人的サービスを軸にしたビジネスモデルの構造的な課題に直面していました。スタッフの採用・育成コストが上昇する中で、同じ品質のサービスを維持しながら収益性を改善するためには、SaaSによる業務の自動化・効率化が不可欠と判断していました。「バックオフィス領域に特化したSaaSを取り込み、人とテクノロジーを組み合わせた次世代のBPOモデルを作りたい。自社開発ではなくM&Aで完成されたプロダクトを獲得したい」——それが今回の依頼の核心でした。
  • ミライアはこのご相談を受け、候補先の選定に着手。SaaS・バックオフィス領域への深い理解を元に、プロダクトの完成度・対応機能の幅・導入実績・開発チームの安定性を軸に複数社をリストアップするなかで、株式会社Aが要件に合致すると判断し、打診へと進みました。
キックオフ・ヒアリング
  • 株式会社A代表との最初の対話は、財務数値の整理よりも前に始めました。「なぜバックオフィス領域のSaaSを作ろうと思ったのか」「経費精算や契約管理の現場でどんな課題を解決したかったのか」「譲渡後もプロダクト開発に関わり続けたいか」——代表が積み上げてきたプロダクトとチームへの敬意を起点に、時間をかけて伺いました。ヒアリングの内容は「成長戦略シート」として整理し、後続のマッチングや条件交渉の場で、立ち戻れる土台として活用しました。
  • 買い手である株式会社B側からは、「BPO顧客の業務効率化にそのまま活用でき、かつBPOスタッフが導入支援にも関与できるプロダクトを取り込みたい」というオーダーをすでに受けていました。そのため株式会社A代表のヒアリングでは、機能仕様や導入実績だけでなく、「このプロダクトがバックオフィスの現場業務に自然に溶け込める設計になっているか」という視点を、最初の仕事と位置づけていました。
  • バックオフィスSaaS事業において、機能の豊富さだけでなく、経理・総務・人事の現場担当者が使いこなせる設計思想そのものが資産になります。売り手・買い手 双方の成長戦略 が重なる部分を見つけることが、このフェーズでのミライアの役割でした。
候補先の選定
  • 成長戦略シートをもとに、株式会社B含めミライアの独自ネットワークから候補先を選定しました。「バックオフィスSaaSが加わることで、BPO顧客に提供できる価値がどう広がるか」というシナジー仮説を軸に、単なる財務的な相性ではなく、対応機能の業務領域との親和性・BPOスタッフが活用できる操作性・チーム文化の重なりを重視して複数社をご提案。
NDA・アドバイザリー契約の締結
  • 初回面談で代表の意向と方向性を確認したうえで、ミライアとのNDA・アドバイザリー契約を締結。着手金はいただかないまま、ここから本格的な伴走を開始します。

Phase 2. 事前準備フェーズ

売り手側の事業の価値を言語化し、買い手検討に必要な情報を、一緒に整えていきます。

企業価値の算定
  • DCF法・類似企業比較法・直近の取引事例を組み合わせ、株式価値のレンジを算定。バックオフィスSaaSモデルの評価では、導入社数・ARR(年間経常収益)・解約率・ARPU(顧客単価)・対応可能な機能モジュールの幅がキー項目になります。「導入後の運用支援体制が不足していた」という売り手の課題は逆に、買い手のBPOスタッフが導入支援・活用促進を担うことで解約率が大幅に改善できるシナジーとして評価される要因にもなります。数字の前提はすべて代表と共有し、「買い手がどう見るか」を念頭に置いた価格レンジを共通認識にしました。
IM(インフォメーション・メモランダム)の作成
  • 買い手候補への開示資料(IM)は、ミライアが主導して作成。プロダクトの機能構成・技術スタック、導入企業のプロファイルと業種分布、ARRと解約率の推移、開発ロードマップ、リスク要因まで、バックオフィスSaaSの文脈で読める構成にしました。売り手側の日常業務を止めないよう、ドラフトをこちらから提示し、レビューを重ねる進め方で仕上げました。

Phase 3. 打診・初期検討フェーズ

買い手候補への打診と情報開示を、リスクを抑えながら、一歩ずつ進めます。

NDA・アドバイザリー締結と情報開示
  • 株式会社B側とのNDA(秘密保持契約)・アドバイザリー契約をミライアが締結。その後、IMを段階的に開示しました。導入企業名や契約・経費データに関わる情報は特に機密性が高いため、開示範囲と匿名化の判断は、売り手と毎回確認しながら進めました。
関心の確認とフィードバック整理
  • 株式会社B側の初期検討における論点——「開発チームの継続意向は買収後も維持されるか」「BPOスタッフがSaaSの導入支援・活用促進を担える習熟期間はどれくらいか」「既存の導入企業との契約は株式譲渡後も自動的に引き継げるか」——を整理し、売り手側にフィードバック。双方の温度感を週次で確認しながら、検討の停滞を防ぎました。

Phase 4. 交渉・基本合意フェーズ

トップ面談で互いの意思を確かめ、条件交渉を経て、基本合意(LOI)まで進みます。

トップ面談のセッティングと同席
  • 両社の経営トップによる対面での面談を、ミライアがセッティング。当日はアジェンダを事前に共有し、ミライアも同席しました。価格交渉の前に、「バックオフィスSaaSが目指す業務効率化の世界観」と「BPO企業が人とテクノロジーを組み合わせて実現したいサービスの姿」を語り合う時間を先に設けたことで、両代表の間に共通の文脈が生まれました。
条件交渉と論点整理
  • 株式譲渡特有の論点として、株式の評価額・譲渡対価の支払いスキーム(一括か分割か)に加え、表明保証の範囲、既存の雇用契約の引き継ぎ、開発チームの待遇水準の維持・代表の処遇と役割の継続——これらをフェーズごとにメモを起こし、両社が”同じ前提で”議論できる場を整えました。
  • 55名のSaaS企業が340名規模のBPO企業に統合される際に最も丁寧な議論が必要だったのは、開発文化の維持でした。プロダクト主導で動いてきたSaaSチームが、受託型のBPO組織に統合されることでプロダクト改善のスピードや優先度が変わることへの懸念が売り手側にありました。「買収後もプロダクトロードマップの意思決定をどこが担うか」——この論点に対して買い手側が明確な体制設計を示したことが、合意形成をはやめた大きな手応えでした。
基本合意書(LOI)のドラフトと中間金
  • 条件がおおむね固まった段階で、ミライアが基本合意書(LOI)のドラフトを作成。独占交渉権が付与され、中間金のお支払いをしていただきました。

Phase 5. 最終合意・クロージングフェーズ

デューデリジェンス(DD)を経て最終契約書(SPA)を締結。引き渡しが完了するまで、隣にいます。

DDの調整と専門家連携
  • 財務・法務・事業の3軸でDDを実施。株式譲渡では法人格ごと引き受けるため、簿外債務・未払い残業代・導入企業のデータ管理体制・プロダクトの知的財産権帰属等、SaaS事業特有のリスク確認に特に注力しました。バックオフィスSaaSは経費・契約・人事データなど機密性の高い情報を扱うため、セキュリティ体制と個人情報保護の運用状況についても重点的に確認しました。売り手側の顧問税理士・弁護士と、買い手側の専門家チームの間に入り、論点の優先順位と日程を調整。売り手の業務負荷が集中しないよう、資料提供のスケジュールをこちらで設計しました。
SPAの論点整理
  • DD結果をもとに最終契約書(SPA)の論点を整理。表明保証の補償上限と期間、クローバック条項の有無、アーンアウト(業績連動対価)の設計——株式譲渡ならではの条件項目を、双方にとって公平な落としどころに着地させるため、ミライアが両社の間で翻訳役を担いました。
クロージング立会いと引き渡し
  • 最終契約締結・株式の移転・対価の決済を、ミライアが同席のもと完了。引き渡しが完了するまで隣にいる——これが私たちの変わらないスタンスです。その後、スムーズな引き継ぎを経て、株式会社BのBPO顧客へのSaaS導入支援が段階的に開始。約4ヶ月後には、SaaSとBPOを一体で提供する次世代バックオフィス支援モデルとして、新体制での正式稼働が始まりました。

結び

バックオフィスSaaS × BPOという組み合わせは、「デジタルと人、代替し合う関係」に見えるかもしれません。けれど、両社が共通して向き合っていたのは「企業のバックオフィス業務を、もっとシンプルに・もっとスマートに動かすこと」でした。SaaSが自動化できる部分はSaaSが担い、人が介在することで価値が生まれる部分は専門スタッフが担う——その最適な組み合わせを設計できる体制が、今回のM&Aで初めて実現しました。

株式譲渡という形態は、雇用・待遇・雇用契約をそのまま引き継げる一方、法人格ごと移転するため、デューデリジェンスの深度や表明保証の設計が成否を分けます。ミライアはそのプロセス全体を、両社が安心して進められるように設計し、実行していきます。

波江田 茂生

株式会社ミライア代表取締役CEO。 スタートアップ企業にて複数の新規事業の立ち上げ、マーケティング、システム構築などを経験。株式会社マイナビにて、大手企業向けの採用コンサルティングおよびメンバーのマネジメントに従事し、最速で課長に昇進、年間MVPを受賞。その後、株式会社マイナビM&Aの立ち上げ責任者として、2年間で個人売上3億円・メンバー30名規模まで事業を拡大。これらの経験を経て、株式会社ミライアを創業し、代表取締役に就任。

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