技術力はあるが営業人員が足りないクラウドセキュリティ企業が、
MSP事業の全国顧客基盤を活用し、
販路拡大を果たした、成長戦略型M&A

クラウドセキュリティ企業の「次の打ち手」を、成長戦略型M&Aで実現した1件。
メール送付からクロージング(SPA締結)まで、ミライアが伴走した全5フェーズの工程をご紹介します。

  • 読了時間約10分
  • 扱う業界IT / IT
  • 扱う業種クラウドセキュリティ / MSP
  • 組織規模11〜50人
  • 最終更新2026年7月

ミライアは「成長戦略型M&A」を軸に、売り手・買い手それぞれの”事業の続き”を、一緒に描いていく仕事をしています。本記事では、クラウドセキュリティとMSP(IT運用代行)という、企業のITインフラを支えるという共通軸を持ちながらも異なるケイパビリティを持つ企業同士の株式譲渡を、ミライアのフローに沿って紐解きます。初回接触から成約までのプロセスを、各フェーズで実際に何を進めたのかを、モデルケースを通してご紹介します。

ミライアの強みは、4つに絞った対応領域への深い業界理解です。両者を組み合わせた時に”何が伸びるか”を、シナジー仮説として一緒に立てる。その仮説を軸に、候補のご提案から条件交渉までを、一貫してまとめていきます。

この記事のおすすめ読者

  • クラウドセキュリティ事業の販路拡大や営業体制の強化を模索しているスタートアップ・中小企業の経営者の方
  • M&Aによってセキュリティ領域のサービスを自社ラインナップに加えたいIT運用企業の経営層の方
  • 技術特化型のスモール企業と営業力を持つ大手企業のM&Aがどのようなシナジーを生むかを知りたい方

ケース概要

本ケースは、クラウド環境のセキュリティ診断・監視サービスを提供する技術特化型スタートアップと、全国でITインフラの運用・保守を展開するMSP企業による株式譲渡の事例です。技術力には自信を持ちながらも営業人員が少なく販路拡大に苦しんでいた売り手側と、既存顧客からセキュリティ需要が高まる中でサービス拡充が急務だった買い手側——両社の課題が鏡合わせのように補完し合う形で、今回のM&Aは実現しました。

クライアント概要(架空・モデルケース)


譲渡企業(売り手)

  • 株式会社A / 従業員約18名 / クラウドセキュリティ事業を運営。
  • クラウド環境の脆弱性診断・セキュリティ監視・インシデント対応支援を法人向けに提供。

譲渡企業(売り手)課題感

  • セキュリティ診断・監視の技術力は高く、導入顧客からの評価も高い
  • 営業人員が少なく、技術者が営業も兼務せざるを得ない状況が続いている
  • 技術力を活かすための販路と顧客基盤を持つパートナーとの連携を模索していた

譲受企業(買い手)

  • 株式会社B / 従業員約260名 / MSP(IT運用代行)事業を全国展開。
  • 企業のサーバー・ネットワーク・クラウドインフラの運用・保守を一括で担う。

譲受企業(買い手)課題感

  • ITインフラ運用の顧客からセキュリティ対策の強化を求める声が増えているが、対応サービスがない
  • セキュリティ領域を自社で内製化するには、専門人材の採用・育成に時間とコストがかかりすぎる
  • 既存の顧客基盤にそのまま展開できるセキュリティサービスをM&Aで取り込みたい

取引形態

  • 株式譲渡(株式会社Aの全株式を株式会社Bが取得)

ミライアの役割

  • 売り手・買い手双方のM&A仲介。初回打診から最終契約まで一貫して伴走。

プロセスの全体像

ミライアは5つのフェーズ群にまとめ、それぞれで何を行うかを設計しています。本ケースでは初回接触から成約まで約6ヶ月のプロセスとなりました。

本件の特徴は、シナジーの即効性が極めて高かった点です。株式会社BのMSP顧客はすでにセキュリティ強化を求めており、株式会社Aのサービスはその需要にそのまま応えられる完成されたプロダクト体制を持っていました。「技術はある、顧客もいる、あとは組み合わせるだけ」という構図が明確だったことが、6ヶ月という短期間での成約を可能にしました。

Phase 1. 接触・契約フェーズ

売り手・買い手 双方の想いと事業をじっくり伺い、思想の重なりを確認したうえで、アドバイザリー契約を結びます。

株式会社B(買い手)からの依頼
  • 今回のプロセスは、買い手である株式会社B側からのご相談を起点に始まりました。
  • 全国260名体制でMSP事業を展開してきた株式会社Bは、ITインフラ運用の顧客から「セキュリティも一緒に見てほしい」という声が急増していました。クラウド移行が加速する中で、セキュリティ対策の強化は顧客にとって待ったなしの課題となっており、このニーズに応えられないまま他社に流れるケースも出始めていました。専門人材を採用・育成する時間はなく、「完成されたクラウドセキュリティサービスと専門チームを、M&Aで丸ごと取り込みたい」——それが今回の依頼の核心でした。
  • ミライアはこのご相談を受け、候補先の選定に着手。セキュリティ・IT領域への深い理解を元に、クラウドセキュリティの技術力・サービスの完成度・チームの安定性を軸に複数社をリストアップするなかで、株式会社Aが要件に合致すると判断し、打診へと進みました。
キックオフ・ヒアリング
  • 株式会社A代表との最初の対話は、財務数値の整理よりも前に始めました。「なぜクラウドセキュリティという領域を選んだのか」「技術者として守りたかった顧客の資産とは何か」「譲渡後もセキュリティエンジニアとして現場に立ち続けたいか」——代表が積み上げてきた技術とチームへの敬意を起点に、時間をかけて伺いました。ヒアリングの内容は「成長戦略シート」として整理し、後続のマッチングや条件交渉の場で、立ち戻れる土台として活用しました。
  • 買い手である株式会社B側からは、「既存のMSP顧客に対してそのままセキュリティサービスを横展開できる専門チームを取り込みたい」というオーダーをすでに受けていました。そのため株式会社A代表のヒアリングでは、診断・監視技術の精度だけでなく、「このチームがIT運用の現場に溶け込みながら顧客のセキュリティ課題に向き合えるか」という視点を、最初の仕事と位置づけていました。
  • クラウドセキュリティ事業において、技術的な専門性の高さだけでなく、インシデント発生時の顧客対応力や信頼関係そのものが資産になります。売り手・買い手 双方の成長戦略 が重なる部分を見つけることが、このフェーズでのミライアの役割でした。
候補先の選定
  • 成長戦略シートをもとに、株式会社B含めミライアの独自ネットワークから候補先を選定しました。「クラウドセキュリティチームが加わることで、MSP顧客に提供できるサービス価値がどう広がるか」というシナジー仮説を軸に、単なる財務的な相性ではなく、サービス領域の補完性・顧客層の重なり・技術文化の親和性を重視して複数社をご提案。
NDA・アドバイザリー契約の締結
  • 初回面談で代表の意向と方向性を確認したうえで、ミライアとのNDA・アドバイザリー契約を締結。着手金はいただかないまま、ここから本格的な伴走を開始します。

Phase 2. 事前準備フェーズ

売り手側の事業の価値を言語化し、買い手検討に必要な情報を、一緒に整えていきます。

企業価値の算定
  • DCF法・類似企業比較法・直近の取引事例を組み合わせ、株式価値のレンジを算定。クラウドセキュリティモデルの評価では、導入社数・契約継続率・診断・監視サービスの月次収益・セキュリティエンジニアの資格・スキル構成がキー項目になります。「営業人員が少なく販路が限定的だった」という売り手の課題は逆に、買い手の全国MSP顧客基盤に乗ることでサービス展開が一気に加速できるシナジーとして評価される要因にもなります。数字の前提はすべて代表と共有し、「買い手がどう見るか」を念頭に置いた価格レンジを共通認識にしました。
IM(インフォメーション・メモランダム)の作成
  • 買い手候補への開示資料(IM)は、ミライアが主導して作成。サービス構成と対応可能なクラウド環境の範囲、エンジニアのスキル・資格構成、導入顧客のプロファイル、月次・年次収益の推移、リスク要因まで、クラウドセキュリティ事業の文脈で読める構成にしました。売り手側の日常業務を止めないよう、ドラフトをこちらから提示し、レビューを重ねる進め方で仕上げました。

Phase 3. 打診・初期検討フェーズ

買い手候補への打診と情報開示を、リスクを抑えながら、一歩ずつ進めます。

NDA・アドバイザリー締結と情報開示
  • 株式会社B側とのNDA(秘密保持契約)・アドバイザリー契約をミライアが締結。その後、IMを段階的に開示しました。導入顧客の情報やセキュリティ診断の手法詳細は特に機密性が高いため、開示範囲と匿名化の判断は、売り手と毎回確認しながら進めました。
関心の確認とフィードバック整理
  • 株式会社B側の初期検討における論点——「セキュリティエンジニアの継続意向は買収後も維持されるか」「MSPの既存顧客へのクロスセルはどのタイミングから開始できるか」「インシデント対応時の責任体制はどう整理するか」——を整理し、売り手側にフィードバック。双方の温度感を週次で確認しながら、検討の停滞を防ぎました。

Phase 4. 交渉・基本合意フェーズ

トップ面談で互いの意思を確かめ、条件交渉を経て、基本合意(LOI)まで進みます。

トップ面談のセッティングと同席
  • 両社の経営トップによる対面での面談を、ミライアがセッティング。当日はアジェンダを事前に共有し、ミライアも同席しました。価格交渉の前に、「クラウドセキュリティ事業が顧客に守ろうとしてきたもの」と「MSP企業が顧客のITインフラ全体に提供したい安心・安全の姿」を語り合う時間を先に設けたことで、両代表の間に共通の文脈が生まれました。
条件交渉と論点整理
  • 株式譲渡特有の論点として、株式の評価額・譲渡対価の支払いスキーム(一括か分割か)に加え、表明保証の範囲、既存の雇用契約の引き継ぎ、セキュリティエンジニアの待遇水準の維持・代表の処遇と役割の継続——これらをフェーズごとにメモを起こし、両社が”同じ前提で”議論できる場を整えました。
  • セキュリティエンジニアの専門性と独立性の維持については、両社が最も丁寧に議論を重ねた論点でした。大規模なMSP企業に統合されることで、少数精鋭で動いてきたセキュリティチームの機動性や判断の速さが損なわれることへの懸念が売り手側にありました。「買収後もセキュリティ部門としての独立性をどこまで保つか」——買い手側がその具体的な組織設計を早期に示したことが、合意形成をはやめた大きな手応えでした。
基本合意書(LOI)のドラフトと中間金
  • 条件がおおむね固まった段階で、ミライアが基本合意書(LOI)のドラフトを作成。独占交渉権が付与され、中間金のお支払いをしていただきました。

Phase 5. 最終合意・クロージングフェーズ

デューデリジェンス(DD)を経て最終契約書(SPA)を締結。引き渡しが完了するまで、隣にいます。

DDの調整と専門家連携
  • 財務・法務・事業の3軸でDDを実施。株式譲渡では法人格ごと引き受けるため、簿外債務・未払い残業代・過去のセキュリティインシデント対応の履歴・顧客との守秘義務契約の条件等、セキュリティ事業特有のリスク確認に特に注力しました。売り手側の顧問税理士・弁護士と、買い手側の専門家チームの間に入り、論点の優先順位と日程を調整。売り手の業務負荷が集中しないよう、資料提供のスケジュールをこちらで設計しました。
SPAの論点整理
  • DD結果をもとに最終契約書(SPA)の論点を整理。表明保証の補償上限と期間、クローバック条項の有無、アーンアウト(業績連動対価)の設計——株式譲渡ならではの条件項目を、双方にとって公平な落としどころに着地させるため、ミライアが両社の間で翻訳役を担いました。
クロージング立会いと引き渡し
  • 最終契約締結・株式の移転・対価の決済を、ミライアが同席のもと完了。引き渡しが完了するまで隣にいる——これが私たちの変わらないスタンスです。その後、スムーズな引き継ぎを経て、株式会社BのMSP顧客へのクラウドセキュリティサービスの提供が開始。約3ヶ月後には、ITインフラ運用とセキュリティ監視を一体で提供する新体制での正式稼働が始まりました。

結び

クラウドセキュリティ × MSPという組み合わせは、「守る技術と、運用の現場、別々の話」に見えるかもしれません。けれど、両社が共通して向き合っていたのは「企業のデジタル基盤を、安定・安全に動かし続けること」でした。インフラを止めない運用力と、脅威から守るセキュリティ技術——その両輪が揃って初めて、企業のITは本当の意味で信頼できる基盤になります。今回のM&Aは、その問いに対する、ひとつの具体的な答えでした。

株式譲渡という形態は、雇用・待遇・雇用契約をそのまま引き継げる一方、法人格ごと移転するため、デューデリジェンスの深度や表明保証の設計が成否を分けます。ミライアはそのプロセス全体を、両社が安心して進められるように設計し、実行していきます。

波江田 茂生

株式会社ミライア代表取締役CEO。 スタートアップ企業にて複数の新規事業の立ち上げ、マーケティング、システム構築などを経験。株式会社マイナビにて、大手企業向けの採用コンサルティングおよびメンバーのマネジメントに従事し、最速で課長に昇進、年間MVPを受賞。その後、株式会社マイナビM&Aの立ち上げ責任者として、2年間で個人売上3億円・メンバー30名規模まで事業を拡大。これらの経験を経て、株式会社ミライアを創業し、代表取締役に就任。

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