ミライアは「成長戦略型M&A」を軸に、売り手・買い手それぞれの”事業の続き”を、一緒に描いていく仕事をしています。本記事では、AI契約書レビューSaaSと法務コンサルティングという、「企業の法務業務を支える」という共通軸を持ちながらも異なるケイパビリティを持つ企業同士の株式譲渡を、ミライアのフローに沿って紐解きます。初回接触から成約までのプロセスを、各フェーズで実際に何を進めたのかを、モデルケースを通してご紹介します。
ミライアの強みは、4つに絞った対応領域への深い業界理解です。両者を組み合わせた時に”何が伸びるか”を、シナジー仮説として一緒に立てる。その仮説を軸に、候補のご提案から条件交渉までを、一貫してまとめていきます。
この記事のおすすめ読者
- AI契約書レビューSaaS事業のエンタープライズ展開や営業体制の強化を模索している経営者の方
- M&AによってITサービスを内製化し、法務コンサルとテクノロジーを一体で提供したいと考えている企業の経営層の方
- LegalTechプロダクトと法務コンサルという異なるケイパビリティが、M&Aでどのようなシナジーを生むかを知りたい方
ケース概要
本ケースは、AIによる契約書レビューSaaSを提供する専門会社と、契約書作成・法務体制構築など企業法務を幅広く支援する法務コンサルティング会社による株式譲渡の事例です。プロダクトの完成度は高いながらもエンタープライズ向け営業体制の構築に課題を抱えていた売り手側と、法務コンサルの実績は豊富ながらもITサービスを自社で提供できていなかった買い手側——両社の課題が鏡合わせのように補完し合う形で、今回のM&Aは実現しました。
クライアント概要(架空・モデルケース)
譲渡企業(売り手)
- 株式会社A / 従業員約20名 / AI契約書レビューSaaS事業を運営。
- AIによる契約書の自動レビュー・リスク検出・条文比較機能を持つSaaSを法人向けに提供。
譲渡企業(売り手)課題感
- AIによる契約書レビューの精度と使いやすさには自信があるが、大手企業への営業体制が整っていない
- 中小企業への導入は進んでいるが、エンタープライズ向けの提案・サポート体制が不足している
- 大手企業との深い信頼関係を持つパートナーと組むことで、エンタープライズ市場への本格参入を実現したい
譲受企業(買い手)
- 株式会社B / 従業員約140名 / 法務コンサルティング事業を展開。
- 契約書作成・レビュー・法務体制構築・契約管理フロー設計など企業法務を幅広く支援。
譲受企業(買い手)課題感
- 法務コンサルの専門性と大手企業との取引実績は豊富だが、ITツールを組み合わせた提案ができていない
- 顧客から「法務業務をもっとデジタル化したい」という相談が増えているが、自社でSaaSを提供できない
- AI契約書レビューSaaSをM&Aで取り込み、法務コンサルとテクノロジーを一体で提供できる体制を作りたい
取引形態
- 株式譲渡(株式会社Aの全株式を株式会社Bが取得)
ミライアの役割
- 売り手・買い手双方のM&A仲介。初回打診から最終契約まで一貫して伴走。
プロセスの全体像
ミライアは5つのフェーズ群にまとめ、それぞれで何を行うかを設計しています。本ケースでは初回接触から成約まで約6ヶ月のプロセスとなりました。
本件の特徴は、シナジーの即効性と顧客基盤の重なりが明確だった点です。株式会社Bの法務コンサル顧客は法務のデジタル化を求めており、株式会社AのSaaSはその需要にそのまま応えられる。さらに、株式会社BのコンサルタントがSaaSの導入後の活用支援まで担うことで、プロダクト単体では実現できなかった深い顧客定着が生まれる——その構図の明確さが、6ヶ月という期間での成約を後押ししました。

Phase 1. 接触・契約フェーズ
売り手・買い手 双方の想いと事業をじっくり伺い、思想の重なりを確認したうえで、アドバイザリー契約を結びます。
株式会社B(買い手)からの依頼
- 今回のプロセスは、買い手である株式会社B側からのご相談を起点に始まりました。
- 法務コンサルティングで140名規模まで成長してきた株式会社Bは、企業法務の専門性と大手企業との信頼関係を強みに事業を拡大してきました。しかし、顧客から「契約書のレビューをもっと効率化したい」「法務部門のデジタル化を進めたい」という相談が増える中で、ITツールを提供できないまま外部サービスを紹介するにとどまっていました。「AI契約書レビューSaaSをM&Aで取り込み、法務コンサルとテクノロジーを一体で提供できる体制を作りたい」——それが今回の依頼の核心でした。
- ミライアはこのご相談を受け、候補先の選定に着手。LegalTech・法務領域への深い理解を元に、AIレビューの精度・対応可能な契約書種別の幅・エンタープライズへの拡張性・チームの安定性を軸に複数社をリストアップするなかで、株式会社Aが要件に合致すると判断し、打診へと進みました。
キックオフ・ヒアリング
- 株式会社A代表との最初の対話は、財務数値の整理よりも前に始めました。「なぜ契約書レビューというテーマのSaaSを作ろうと思ったのか」「法務担当者のどんな課題を解きたかったのか」「譲渡後もプロダクト開発に関わり続けたいか」——代表が積み上げてきたプロダクトとチームへの敬意を起点に、時間をかけて伺いました。ヒアリングの内容は「成長戦略シート」として整理し、後続のマッチングや条件交渉の場で、立ち戻れる土台として活用しました。
- 買い手である株式会社B側からは、「法務コンサル顧客に対してAI契約書レビューをそのまま提案・導入できるSaaSと開発チームを取り込みたい」というオーダーをすでに受けていました。そのため株式会社A代表のヒアリングでは、機能仕様や導入実績だけでなく、「このプロダクトが法務コンサルの文脈で自然に使われる設計になっているか」という視点を、最初の仕事と位置づけていました。
- AI契約書レビューSaaS事業において、AIの精度だけでなく、法務担当者が日常業務の中で違和感なく使えるUX設計と、契約リスクの判断を支援できる知識ベースの深さそのものが資産になります。売り手・買い手 双方の成長戦略が重なる部分を見つけることが、このフェーズでのミライアの役割でした。
候補先の選定
- 成長戦略シートをもとに、株式会社B含めミライアの独自ネットワークから候補先を選定しました。「AI契約書レビューSaaSが加わることで、法務コンサル顧客に提供できる価値がどう広がるか」というシナジー仮説を軸に、単なる財務的な相性ではなく、対応可能な契約書種別の幅・法務コンサルとの協働可能性・チーム文化の親和性を重視して複数社をご提案しました。
NDA・アドバイザリー契約の締結
- 初回面談で代表の意向と方向性を確認したうえで、ミライアとのNDA・アドバイザリー契約を締結。着手金はいただかないまま、ここから本格的な伴走を開始します。
Phase 2. 事前準備フェーズ
売り手側の事業の価値を言語化し、買い手検討に必要な情報を、一緒に整えていきます。
企業価値の算定
- DCF法・類似企業比較法・直近の取引事例を組み合わせ、株式価値のレンジを算定。AI契約書レビューSaaSモデルの評価では、導入社数・ARR(年間経常収益)・解約率・対応可能な契約書種別の幅・エンタープライズへの拡張性がキー項目になります。「エンタープライズ向け営業体制が整っていなかった」という売り手の課題は逆に、買い手の大手企業顧客基盤に乗ることでエンタープライズ展開が一気に加速できるシナジーとして評価される要因にもなります。数字の前提はすべて代表と共有し、「買い手がどう見るか」を念頭に置いた価格レンジを共通認識にしました。
IM(インフォメーション・メモランダム)の作成
- 買い手候補への開示資料(IM)は、ミライアが主導して作成。プロダクトの機能構成・技術スタック・対応可能な契約書種別、導入企業のプロファイルと業種分布、ARRと解約率の推移、開発ロードマップ、リスク要因まで、AI契約書レビューSaaSの文脈で読める構成にしました。売り手側の日常業務を止めないよう、ドラフトをこちらから提示し、レビューを重ねる進め方で仕上げました。
Phase 3. 打診・初期検討フェーズ
買い手候補への打診と情報開示を、リスクを抑えながら、一歩ずつ進めます。
NDA・アドバイザリー締結と情報開示
- 株式会社B側とのNDA(秘密保持契約)・アドバイザリー契約をミライアが締結。その後、IMを段階的に開示しました。導入企業名や契約書データ・AIの学習に使用したデータの内容は特に機密性が高いため、開示範囲と匿名化の判断は、売り手と毎回確認しながら進めました。
関心の確認とフィードバック整理
- 株式会社B側の初期検討における論点——「プロダクト開発チームの継続意向は買収後も維持されるか」「AIレビューに使用した契約書データの知的財産・個人情報管理体制はどうなっているか」「エンタープライズ向けのセキュリティ要件(SOC2・ISO27001等)への対応状況はどうか」——を整理し、売り手側にフィードバック。双方の温度感を週次で確認しながら、検討の停滞を防ぎました。
Phase 4. 交渉・基本合意フェーズ
トップ面談で互いの意思を確かめ、条件交渉を経て、基本合意(LOI)まで進みます。
トップ面談のセッティングと同席
- 両社の経営トップによる対面での面談を、ミライアがセッティング。当日はアジェンダを事前に共有し、ミライアも同席しました。価格交渉の前に、「AI契約書レビューSaaSが法務担当者に届けようとしていた効率化の価値」と「法務コンサル会社が顧客企業の法務体制に実現したいデジタル化の全体像」を語り合う時間を先に設けたことで、両代表の間に共通の文脈が生まれました。
条件交渉と論点整理
- 株式譲渡特有の論点として、株式の評価額・譲渡対価の支払いスキーム(一括か分割か)に加え、表明保証の範囲、既存の雇用契約の引き継ぎ、開発チームの待遇水準の維持・代表の処遇と役割の継続——これらをフェーズごとにメモを起こし、両社が”同じ前提で”議論できる場を整えました。
- AIレビューに用いるモデルの学習データの取り扱いについては、法的リスクの観点から最も慎重な整理が必要だった論点でした。過去に処理した顧客の契約書データがAIの学習に使われているケースでは、機密保持義務との整合性・個人情報保護法上の利用目的の範囲・今後の追加学習における同意取得フローを弁護士と連携して早期に整理したことが、合意形成をはやめる大きな手応えとなりました。
基本合意書(LOI)のドラフトと中間金
- 条件がおおむね固まった段階で、ミライアが基本合意書(LOI)のドラフトを作成。独占交渉権が付与され、中間金のお支払いをしていただきました。
Phase 5. 最終合意・クロージングフェーズ
デューデリジェンス(DD)を経て最終契約書(SPA)を締結。引き渡しが完了するまで、隣にいます。
DDの調整と専門家連携
- 財務・法務・事業の3軸でDDを実施。株式譲渡では法人格ごと引き受けるため、簿外債務・未払い残業代・プロダクトの知的財産権帰属・AIモデルの学習データの取り扱いに関する法的整理・セキュリティ体制(エンタープライズ要件への適合状況)等、LegalTechプロダクト特有のリスク確認に特に注力しました。売り手側の顧問税理士・弁護士と、買い手側の専門家チームの間に入り、論点の優先順位と日程を調整。売り手の業務負荷が集中しないよう、資料提供のスケジュールをこちらで設計しました。
SPAの論点整理
- DD結果をもとに最終契約書(SPA)の論点を整理。表明保証の補償上限と期間、クローバック条項の有無、アーンアウト(業績連動対価)の設計——株式譲渡ならではの条件項目を、双方にとって公平な落としどころに着地させるため、ミライアが両社の間で翻訳役を担いました。
クロージング立会いと引き渡し
- 最終契約締結・株式の移転・対価の決済を、ミライアが同席のもと完了。引き渡しが完了するまで隣にいる——これが私たちの変わらないスタンスです。その後、スムーズな引き継ぎを経て、株式会社Bの法務コンサル顧客へのAI契約書レビューSaaSの統合提案が開始。約3ヶ月後には、法務体制の構築支援からAI契約書レビューの導入・活用定着まで一気通貫で担う新体制での正式稼働が始まりました。
結び
顧客が本当に求めているのは、AI契約書レビューSaaSでも法務コンサルでもなく、その先にある「法務担当者が契約リスクを見落とさず、本来集中すべき戦略的な法務業務に時間を使えること」です。AIが契約書のリスクを瞬時に検出し、専門家が法的判断と体制設計を支える——その両方が揃った時に、企業の法務機能は本当の意味で強くなります。今回のM&Aは、その問いに対する、ひとつの具体的な答えでした。
株式譲渡という形態は、雇用・待遇・雇用契約をそのまま引き継げる一方、法人格ごと移転するため、デューデリジェンスの深度や表明保証の設計が成否を分けます。ミライアはそのプロセス全体を、両社が安心して進められるように設計し、実行していきます。

波江田 茂生
株式会社ミライア代表取締役CEO。 スタートアップ企業にて複数の新規事業の立ち上げ、マーケティング、システム構築などを経験。株式会社マイナビにて、大手企業向けの採用コンサルティングおよびメンバーのマネジメントに従事し、最速で課長に昇進、年間MVPを受賞。その後、株式会社マイナビM&Aの立ち上げ責任者として、2年間で個人売上3億円・メンバー30名規模まで事業を拡大。これらの経験を経て、株式会社ミライアを創業し、代表取締役に就任。
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