ミライアは「成長戦略型M&A」を軸に、売り手・買い手それぞれの”事業の続き”を、一緒に描いていく仕事をしています。本記事では、SAP導入支援とERPコンサルティングという、「企業の基幹システムを変革する」という共通軸を持ちながらも異なるケイパビリティを持つ企業同士の株式譲渡を、ミライアのフローに沿って紐解きます。初回接触から成約までのプロセスを、各フェーズで実際に何を進めたのかを、モデルケースを通してご紹介します。
ミライアの強みは、4つに絞った対応領域への深い業界理解です。両者を組み合わせた時に”何が伸びるか”を、シナジー仮説として一緒に立てる。その仮説を軸に、候補のご提案から条件交渉までを、一貫してまとめていきます。
この記事のおすすめ読者
- SAP導入支援事業の顧客基盤拡大や事業領域の多様化を模索している経営者の方
- M&AによってSAP技術者を確保し、ERP提案力を強化したいと考えている企業の経営層の方
- SAP実装力とERPコンサルという異なるケイパビリティが、M&Aでどのようなシナジーを生むかを知りたい方
ケース概要
本ケースは、SAP導入・保守に豊富な実績を持つ専門会社と、ERPコンサルティングを全国で展開する中堅企業による株式譲渡の事例です。大企業案件の実績は豊富ながらもSAP以外への事業展開に課題を抱えていた売り手側と、全国規模でERP支援を展開しながらもSAP技術者の不足が課題だった買い手側——両社の課題が鏡合わせのように補完し合う形で、今回のM&Aは実現しました。
クライアント概要(架空・モデルケース)
譲渡企業(売り手)
- 株式会社A / 従業員約20名 / SAP導入支援事業を運営。
- SAP S/4HANAの導入・カスタマイズ・保守・アップグレード支援を大企業向けに提供。SAP認定コンサルタントを複数名擁する。
譲渡企業(売り手)課題感
- SAP導入・保守の技術力と大企業案件の実績は高いが、SAPに特化しすぎており事業の幅が限定されている
- SAP以外のERPや業務改革の文脈から顧客に関与できる機会がなく、単価の上限が見えてきている
- ERP全般の戦略立案や業務改革の上流から関与できるパートナーと組むことで、より広い顧客層に価値を届けたい
譲受企業(買い手)
- 株式会社B / 従業員約360名 / ERPコンサルティング事業を全国展開。
- ERP選定・導入計画策定・業務プロセス設計・PMO支援まで、基幹システム刷新を幅広い企業に提供。
譲受企業(買い手)課題感
- ERP全般のコンサルティング実績は豊富だが、SAPの具体的な実装・カスタマイズを担えるSAP技術者が社内に不足している
- 大企業顧客からのSAP S/4HANA導入・移行案件の相談に対応できず、機会損失が発生している
- SAP専門の技術チームをM&Aで取り込み、ERPコンサルとSAP実装を一体で提供できる体制を作りたい
取引形態
- 株式譲渡(株式会社Aの全株式を株式会社Bが取得)
ミライアの役割
- 売り手・買い手双方のM&A仲介。初回打診から最終契約まで一貫して伴走。
プロセスの全体像
ミライアは5つのフェーズ群にまとめ、それぞれで何を行うかを設計しています。本ケースでは初回接触から成約まで約6ヶ月のプロセスとなりました。
本件の特徴は、シナジーの即効性と人材希少性が重なっていた点です。SAP技術者は市場での採用が極めて難しく、自社採用では時間がかかりすぎる。一方、株式会社AのSAPチームは株式会社BのERPコンサル顧客が求めるスキルセットをそのまま持っていた——技術者の希少性という市場背景が、M&Aの意思決定を加速させる原動力となりました。

Phase 1. 接触・契約フェーズ
売り手・買い手 双方の想いと事業をじっくり伺い、思想の重なりを確認したうえで、アドバイザリー契約を結びます。
株式会社B(買い手)からの依頼
- 今回のプロセスは、買い手である株式会社B側からのご相談を起点に始まりました。
- ERPコンサルティングで360名規模まで成長してきた株式会社Bは、ERP全般の提案力と実績を持つ一方で、SAP S/4HANAの具体的な実装フェーズを担えないことへの課題意識を高めていました。大企業顧客から「SAP S/4HANAへの移行も一緒に見てほしい」という相談が増える中、SAP技術者を市場で採用しようとしても採用競争が激しく、時間とコストがかかりすぎていました。「SAP専門のチームをM&Aで一括で取り込むことが最も現実的と判断した」——それが今回の依頼の核心でした。
- ミライアはこのご相談を受け、候補先の選定に着手。SAP・ERP領域への深い理解を元に、SAP認定コンサルタントの保有数・対応可能なSAPモジュールの幅・大企業案件の実績・チームの安定性を軸に複数社をリストアップするなかで、株式会社Aが要件に合致すると判断し、打診へと進みました。
キックオフ・ヒアリング
- 株式会社A代表との最初の対話は、財務数値の整理よりも前に始めました。「なぜSAP導入支援に特化しようと思ったのか」「大企業の基幹システム変革でどんな価値を届けてきたか」「譲渡後もSAPの現場に関わり続けたいか」——代表が積み上げてきた技術とチームへの敬意を起点に、時間をかけて伺いました。ヒアリングの内容は「成長戦略シート」として整理し、後続のマッチングや条件交渉の場で、立ち戻れる土台として活用しました。
- 買い手である株式会社B側からは、「ERPコンサルの大企業顧客に対してSAPの設計・実装・保守をそのまま担えるチームを取り込みたい」というオーダーをすでに受けていました。そのため株式会社A代表のヒアリングでは、認定資格の数や導入実績だけでなく、「このチームがERPコンサルタントと並走しながら業務要件をSAPの設定に正確に変換できるか」という視点を、最初の仕事と位置づけていました。
- SAP導入支援事業において、製品スキルの高さだけでなく、大企業特有の複雑な業務プロセスと組織間の調整を理解したうえでSAPを設計・実装できる力そのものが資産になります。売り手・買い手 双方の成長戦略が重なる部分を見つけることが、このフェーズでのミライアの役割でした。
候補先の選定
- 成長戦略シートをもとに、株式会社B含めミライアの独自ネットワークから候補先を選定しました。「SAP導入支援チームが加わることで、ERPコンサル顧客に提供できる価値がどう広がるか」というシナジー仮説を軸に、単なる財務的な相性ではなく、対応可能なSAPモジュールの幅・大企業案件への対応経験・チーム文化の親和性を重視して複数社をご提案しました。
NDA・アドバイザリー契約の締結
- 初回面談で代表の意向と方向性を確認したうえで、ミライアとのNDA・アドバイザリー契約を締結。着手金はいただかないまま、ここから本格的な伴走を開始します。
Phase 2. 事前準備フェーズ
売り手側の事業の価値を言語化し、買い手検討に必要な情報を、一緒に整えていきます。
企業価値の算定
- DCF法・類似企業比較法・直近の取引事例を組み合わせ、株式価値のレンジを算定。SAP導入支援事業の評価では、SAP認定コンサルタントの保有数・対応可能なSAPモジュールの幅・大企業案件の規模と業種分布・保守継続契約率・S/4HANA移行の実績がキー項目になります。「SAP以外への展開が限定的だった」という売り手の課題は逆に、買い手のERP顧客基盤に乗ることでSAP以外のERPとの比較・選定案件にも上流から参画でき、提案の幅が広がるシナジーとして評価される要因にもなります。数字の前提はすべて代表と共有し、「買い手がどう見るか」を念頭に置いた価格レンジを共通認識にしました。
IM(インフォメーション・メモランダム)の作成
- 買い手候補への開示資料(IM)は、ミライアが主導して作成。SAPコンサルタントの認定資格構成と対応可能なモジュール・業種、過去案件のプロファイルと規模の分布、売上構造と保守継続率の推移、S/4HANA移行実績の概要、リスク要因まで、SAP導入支援事業の文脈で読める構成にしました。売り手側の日常業務を止めないよう、ドラフトをこちらから提示し、レビューを重ねる進め方で仕上げました。
Phase 3. 打診・初期検討フェーズ
買い手候補への打診と情報開示を、リスクを抑えながら、一歩ずつ進めます。
NDA・アドバイザリー締結と情報開示
- 株式会社B側とのNDA(秘密保持契約)・アドバイザリー契約をミライアが締結。その後、IMを段階的に開示しました。顧客の基幹システム構成や業務プロセス設計の詳細は特に機密性が高いため、開示範囲と匿名化の判断は、売り手と毎回確認しながら進めました。
関心の確認とフィードバック整理
- 株式会社B側の初期検討における論点——「SAP認定コンサルタントの継続意向は買収後も維持されるか」「ERPコンサルタントとSAPエンジニアが大企業案件で協働する際のプロジェクト設計はどう行うか」「SAPのパートナー契約・認定ステータスは株式譲渡後も引き継げるか」——を整理し、売り手側にフィードバック。双方の温度感を週次で確認しながら、検討の停滞を防ぎました。
Phase 4. 交渉・基本合意フェーズ
トップ面談で互いの意思を確かめ、条件交渉を経て、基本合意(LOI)まで進みます。
トップ面談のセッティングと同席
- 両社の経営トップによる対面での面談を、ミライアがセッティング。当日はアジェンダを事前に共有し、ミライアも同席しました。価格交渉の前に、「SAP導入支援が大企業の基幹システム変革に届けてきた価値」と「ERPコンサル会社が顧客企業の基幹システム刷新に実現したい一気通貫の支援像」を語り合う時間を先に設けたことで、両代表の間に共通の文脈が生まれました。
条件交渉と論点整理
- 株式譲渡特有の論点として、株式の評価額・譲渡対価の支払いスキーム(一括か分割か)に加え、表明保証の範囲、既存の雇用契約の引き継ぎ、SAP認定コンサルタントの待遇水準の維持・代表の処遇と役割の継続——これらをフェーズごとにメモを起こし、両社が”同じ前提で”議論できる場を整えました。
- SAPのパートナー契約・認定ステータスの引き継ぎについては、SAP社への届け出と条件確認が必要な論点でした。株式譲渡後も認定パートナーとしてのステータスを維持するための手続きをSAP社の担当者と連携して早期に着手したことで、買い手側の懸念を解消し、交渉全体をスムーズに進める大きな手応えとなりました。また、20名という小規模チームが360名規模の組織に統合される際のSAP専門チームの独立性の維持についても、具体的な組織設計を早期に合意したことが、売り手側の安心感につながりました。
基本合意書(LOI)のドラフトと中間金
- 条件がおおむね固まった段階で、ミライアが基本合意書(LOI)のドラフトを作成。独占交渉権が付与され、中間金のお支払いをしていただきました。
Phase 5. 最終合意・クロージングフェーズ
デューデリジェンス(DD)を経て最終契約書(SPA)を締結。引き渡しが完了するまで、隣にいます。
DDの調整と専門家連携
- 財務・法務・事業の3軸でDDを実施。株式譲渡では法人格ごと引き受けるため、簿外債務・未払い残業代・顧客との導入支援契約の条件・SAPパートナー契約の内容・SAP認定資格の更新状況等、SAP導入支援事業特有のリスク確認に特に注力しました。大企業の基幹システムに関わる情報は機密性が特に高いため、情報管理体制と守秘義務の運用状況についても重点的に確認しました。売り手側の顧問税理士・弁護士と、買い手側の専門家チームの間に入り、論点の優先順位と日程を調整。売り手の業務負荷が集中しないよう、資料提供のスケジュールをこちらで設計しました。
SPAの論点整理
- DD結果をもとに最終契約書(SPA)の論点を整理。表明保証の補償上限と期間、クローバック条項の有無、アーンアウト(業績連動対価)の設計——株式譲渡ならではの条件項目を、双方にとって公平な落としどころに着地させるため、ミライアが両社の間で翻訳役を担いました。
クロージング立会いと引き渡し
- 最終契約締結・株式の移転・対価の決済を、ミライアが同席のもと完了。引き渡しが完了するまで隣にいる——これが私たちの変わらないスタンスです。その後、スムーズな引き継ぎを経て、株式会社BのERPコンサル顧客へのSAP導入支援の統合提案が開始。約4ヶ月後には、ERP戦略の立案からSAPの設計・導入・保守まで一気通貫で担う新体制での正式稼働が始まりました。
結び
顧客が本当に求めているのは、ERPコンサルでもSAP導入支援でもなく、その先にある「基幹システムの刷新が、現場の業務効率と経営の可視化を本当の意味で変えること」です。どの基幹システムを選び、どう業務プロセスを設計するかを描くコンサルタントと、SAPという複雑なシステムを現場に正確に実装する専門家——その両方が一社に揃った時に、基幹システム変革は絵に描いた餅ではなく、現場に根付く変革として実現します。今回のM&Aは、その問いに対する、ひとつの具体的な答えでした。
株式譲渡という形態は、雇用・待遇・雇用契約をそのまま引き継げる一方、法人格ごと移転するため、デューデリジェンスの深度や表明保証の設計が成否を分けます。ミライアはそのプロセス全体を、両社が安心して進められるように設計し、実行していきます。

波江田 茂生
株式会社ミライア代表取締役CEO。 スタートアップ企業にて複数の新規事業の立ち上げ、マーケティング、システム構築などを経験。株式会社マイナビにて、大手企業向けの採用コンサルティングおよびメンバーのマネジメントに従事し、最速で課長に昇進、年間MVPを受賞。その後、株式会社マイナビM&Aの立ち上げ責任者として、2年間で個人売上3億円・メンバー30名規模まで事業を拡大。これらの経験を経て、株式会社ミライアを創業し、代表取締役に就任。
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